ホーム 社説

「新潮45」休刊

2018年9月29日
◆世論の怒り真摯に向き合え◆

 性的少数者(LGBTなど)への表現が差別的だとの批判を受けた月刊誌「新潮45」の特集を巡り、新潮社は同誌の休刊を決めた。「謝罪ではない」としていた社長談話から一転、休刊に追い込まれた格好だ。同社は「部数低迷に直面し、試行錯誤の過程で編集上の無理が生じた」と謝罪。日本雑誌協会によると最新の発行部数は1万6800部、10年前の約4割に落ち込んでいる。厳しい経営の中で性急な結果を求められ、話題になるような極端な特集掲載に走った。出版不況が続き、社内に十分な編集体制を整えられなかったことが背景にある。

国内外から批判の声

 「新潮45」は自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が、LGBTを「子供をつくらない、つまり『生産性』がない」などと表現し、行政支援を疑問視する寄稿を8月号に掲載し、批判を受けた。さらに10月号では「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と題し、杉田氏の寄稿を擁護する反論特集を掲載。国内外の作家や新潮社内からも批判の声が上がり、同社との仕事を見合わせる作家や書店が相次ぐなどの動きが広がった。

 近年、性的多様性を尊重する流れはある。3年前に東京都渋谷区は同性カップルを結婚に相当するパートナーと認める全国初の制度を導入。札幌、大阪、福岡市などが続き、社内制度の見直しを進める企業も出始めた。お茶の水女子大をはじめ複数の女子大はトランスジェンダーの学生受け入れに向け、具体的な検討に入った。

 だが杉田氏の主張はこの流れに逆行している。そもそも子どもを産むか産まないかについて、生産性という尺度で評価すること自体おかしい。優生思想の差別的な考えに通じるものがあり、無理解と偏見に満ちた内容だ。全ての国民に「個人の尊重」と「法の下の平等」を保障する憲法と相いれるものではない。

根底に伝統的家族観

 自民党の二階俊博幹事長は当初、「人それぞれ、政治的立場はもとより人生観もいろいろ」と語り、党として問題にしない考えを示していた。杉田氏も批判を意に介する様子はなく、「先輩議員から『間違ったことを言っていないから、胸を張っていれば良い』と声を掛けられた」とツイッターでつぶやいた。保守派に根強い伝統的家族観が根底にあるのだろう。

 その後、批判の高まりを受け、自民党は杉田氏に対して指導を行ったが、自民党の谷川とむ衆院議員がインターネット番組に出演し、「(同性愛は)趣味みたいなものだ」と発言したことも発覚。新潮社はもとより政治家たちは、国内外に広がった世論の怒りを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 身近な人にも相談できずに悩み、職場や学校で差別や偏見、いじめにさらされる切実な訴えが後を絶たない。休刊によって問題が収束するわけではない。差別解消と人権保護を阻む壁を見直すときだ。

このほかの記事

過去の記事(月別)