ホーム 社説

嫡出推定の見直し

2018年9月26日
◆無戸籍解消へ法改正検討を◆

 女性が婚姻中に妊娠した子は夫の子と見なす民法の「嫡出推定」を見直すため、法務省は有識者らでつくる研究会を10月にも発足させる。母親が子どもの出生届を提出せず、無戸籍者を生み出す大きな要因と指摘されており、解消を目指す考えだ。離婚や再婚、家庭内暴力が増え続ける中、解消に向けた多くの提案がなされてきたが、国の動きは鈍い。生まれた子との親子関係を否定する「嫡出否認」の訴えを夫にのみ認める民法規定については、司法の場でも争われた。判決を踏まえ、法改正の検討を加速させる必要がある。

難しい女性側の訴え

 戸籍がないと、住民票やパスポートを持てないなど不利益を被る。民法は、婚姻中に妊娠した子は夫の子、離婚後300日以内に出産した子は元夫の子と推定すると定める。女性が夫と別居中、または離婚直後に別の男性との間の子を産んだ場合、戸籍に夫の子として記載される。

 これを避けるためには、嫡出推定を否認する訴えを起こす必要があるが、現行法では夫や元夫しか提訴できない。接触を避けたい女性側が提訴を依頼するのは難しく、女性が出生届を出さず、子が無戸籍になるケースがある。

 神戸市の60代女性が、「嫡出否認」の訴えを夫にのみ認める民法規定は憲法違反とし、国に損害賠償を求めて提訴した。原告は1980年代に暴力を振るう夫と別居し、離婚成立前に別の男性との間に娘をもうけた。民法規定により、元夫の子とみなされるのを避けるため出生届を出さず、娘とその孫2人も無戸籍となった。元夫が亡くなって実父による認知が可能となり、ようやく2年前に無戸籍の状態を解消できたという。

色あせた規定の根拠

 8月、この訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は原告側の控訴を棄却。「妻や子に嫡出否認権を認めることで無戸籍となるのを防ぐことができるのは一部にすぎない」とした上で、戸籍や婚姻、嫡出推定など家族制度を巡る制度全体の中で解決を図るべき問題であるとの考えを示した。

 国会に抜本的な改革を促したといえる。焦点となった嫡出否認や嫡出推定、さらに女性の再婚禁止期間の規定は無戸籍問題の背景として国会でも幾度となく取り上げられてきた。再婚禁止期間は短縮されたが、残る二つの規定は手つかずのままだ。専門家からは、嫡出否認の訴えを母親や子からも起こせるようにする、父親の欄が空白の状態で出生届を受け付ける-など解消案が出されてきた。

 いずれの規定も明治時代に定められ、今の民法に引き継がれた。家族の在り方は時代とともに変わる。晩婚化が進み、離婚や再婚が増えた。「家制度」を前提にした規定の根拠は急速に色あせた。法務省によると、無戸籍者は8月時点で715人だが、氷山の一角ともいわれる。問題を先送りせず、救済に本腰を入れるときだ。

このほかの記事

過去の記事(月別)