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「原爆の日」と政府

2018年8月9日
◆核廃絶に逆行していないか◆

 広島、長崎に原子爆弾が投下されて73年。今回が平成最後の「原爆の日」だ。昭和から平成、さらに次の時代へ。時の流れとともに被爆体験が「遠くなる」ことは仕方ないのかもしれない。しかし、だからこそ、日本が無二の被爆国であること、ほぼ瞬時に20万人の命が奪われたこと、無数の罪なき人が愛する家族を失ったこと、今も被爆者が放射線被害に苦しんでいることを、一人一人がしっかりと胸に刻み続けたい。

体験を風化させるな

 3月末時点で被爆者健康手帳を所持する人の数は15万4859人。被爆者の平均年齢は82歳を超え、1年前より9762人減った。ここ数年、1万人前後の被爆者が毎年亡くなっている。

 被爆体験の風化が懸念されて久しい。それでも両被爆地は、若者が個々の被爆者の体験を直接伝える「伝承者」の育成や、国内外での原爆展開催などを通じて、被爆体験の伝承と共有に向けた地道な努力を続けてきた。

 被爆を過去の事だとして忘却し、風化させてはならない。世界の指導者は被爆地で惨状に触れ、核廃絶への道筋を付けてほしい-。

 広島の松井一実市長は原爆投下時の午前8時15分の直後に読み上げる平和宣言で、こんな被爆者の生の声を代読し、被爆体験を継続して伝える重要性を訴えた。また核兵器に依存する為政者に対し、人間が本来持つ「理性」に立ち返るよう呼び掛けた。

 「遠くなる体験」を忘却・風化させまいと、被爆者や関係者が取り組みを続ける一方、「唯一の戦争被爆国」を自負する日本政府はどんな努力をしてきたのか。

疑問多い「平和利用」

 残念ながら、安倍政権は被爆者の願いや、被爆地が説く「理性」に逆行する政策をとり続けていると断じざるを得ない。

 昨年末、核兵器禁止条約の採択が評価され、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)にノーベル平和賞が授与された。だが「核の傘」に固執する安倍政権は条約交渉に背を向け、今年1月に来日したICAN事務局長が安倍晋三首相に面会を求めると日程上の都合を理由に断った。核の「平和利用」でも安倍政権は、核爆弾原料にもなる約47トンのプルトニウムを削減する実効的な具体策を示せぬまま、核燃料サイクルと原発回帰を推進する方針だ。

 「私たちは語り続け、文書にし、発信してきたはずだが、それを聞いたことがないかのごとき政策が続く。特に日本の政府。唯一の被爆国として世界平和の先頭に立つと常に言うが、国際交渉の場ではその反対をやっている」 昨年末のノーベル平和賞授賞式の直前、カナダ在住の被爆者サーロー節子さんはインタビューでこう語った。彼女の訴えに多くの人が共感を覚えたはずだ。「核兵器のない世界」の実現に向け、被爆国の力量と真価が試されている。国民一人一人が考えたい夏だ。

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