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カンヌ最高賞

2018年5月25日
◆社会の隅見つめひずみ問う◆

 時代に漂流する家族の機微を描く随一の映画監督だろう。第71回カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞のパルムドールを受賞した。是枝監督は一貫して「家族」という普遍的なテーマを巧みな繊細さで描き、深いメッセージを社会に投げ掛けてきた。世界三大映画祭の最高峰カンヌで日本映画が同賞を受賞したのは21年ぶり5作目となる。

 長編コンペ部門審査員長の俳優ケイト・ブランシェットさんは授賞式で、世界から選ばれた21作品について「社会で抑圧されていたり、つながりや愛を求めていたりする『見えざる人々』に声を与えた」と称賛した。この言葉通り、その真骨頂にあるのが「万引き家族」だろう。

年金不正受給に着想

 「万引き家族」は都会にある下町にひっそりと暮らし、祖母の年金をあてにして万引きをしながら生計を立てる貧しい一家の物語だ。相次いだ年金不正受給事件に着想を得たという。是枝監督は受賞後の会見で「今の日本社会の中で隅に追いやられている、本当だったら見過ごしてしまうかもしれない家族の姿を、どう可視化するかを考える」と答えている。

 貧困や格差が拡大する中でセーフティーネットからこぼれ落ち、存在を忘れられた人々。豊かなはずの日本で生まれている“棄民”の日常を丁寧に描き、社会のひずみをあぶり出す。この手法は、過去の作品でも貫かれてきた。たとえ登場人物の家族が犯罪行為に手を染めようとも、母親が育児放棄して子どもを死に至らしめようとも、紋切り型の価値観や分かりやすい善悪だけで測らない。断罪もしない。人間の生をありのままに肯定し提示することで、是枝作品は共感や共振を呼んできた。

本県でも「覚悟」語る

 子ども虐待を扱った作品「誰も知らない」(2004年)でも同様だった。本紙が子どもの貧困問題を連載していた14年、是枝監督を招いたトークイベントと上映会を宮崎市で行った。この際、「映画を公開した時、(育児放棄した)母親をなぜもっと悪く描かないのかと言われた。しかし、人間を裁いて不幸にして終わってはいけない」と語っている。それは単なる優しさや寛容から発された言葉ではないだろう。「断罪して終わり」にしない表現者としての覚悟と言っていい。

 社会で起きる事件や問題から何を学び取るか。登場人物が併せ持つ優しさや冷淡さ、孤独や生活の見通しのなさ、挫折や希望は、同じ時代を生きる者に通じるものではないか。人と人をつなぎ、支え合う手だてはどんなものか。

 こうした問いを鑑賞者に次々と放ち、揺さぶり、考えさせる。前提には鑑賞者への信頼がある。社会の矛盾から目をそらさず、埋もれた声や存在を「知らない」から「知る」へ。是枝作品とともに、こうした姿勢が世界で認められたことも大きな意味がある。

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