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第22回牧水賞

2018年2月7日
◆文芸の裾野を広げる機会に◆

 第22回若山牧水賞の授賞式が宮崎市できょう、開かれる。受賞者は山梨県甲斐市在住の歌人、三枝浩樹(さいぐさひろき)さん。16年ぶりに出版した第6歌集「時祷集(じとうしゅう)」で受賞した。選考委員から「人生の厚み、深さが読める」「叙情性と祈りに覆われている」と高い評価を受けた。授賞式に際し、祝意を表したい。

 今年は本県出身の歌人、若山牧水(1885~1928年)の没後90年にあたる。一連の授賞行事が牧水顕彰の機運をさらに高めるきっかけとなり、短歌をはじめとする文芸の裾野が広がるよう願う。

歌に澄んだまなざし

 三枝さんは東京で過ごした大学時代を除いては、ずっとふるさと山梨県で暮らし、高校教諭をしながら歌を詠んできた。短歌結社「沃野」代表で、同県歌人協会会長を務めている。

 「時祷集」はふるさとの自然や母親の死、教員生活、自身の子どもなど、多岐にわたる題材で歌われている。作品に対する4人の選考委員の講評には「静けさ」「祈り」「優しさ」といった言葉が並び、穏やかで品格のある作者本人の姿が浮かんでくるようだった。

 中でも選考委員の佐佐木幸綱さんは「照れずに歌う姿勢」を評価していた。「人生について正面切って考えて歌うことは、短歌の世界でも少なくなっている。しかし、歌集からは照れることなく正面から人生を深く見つめ、歌おうとしている姿勢が感じられた」という。この潔さが物事を見つめるとき、表現するときの、澄んだまなざしを生んでいるのではないか。

 佐佐木さんはさらに文学性の高さを挙げ、「近代短歌の良質な部分を受け継いでいる」と述べた。牧水賞は22回目を数え、名だたる歌人が受賞してきた。牧水没後90年の節目に、短歌の伝統を踏まえながら、作品に若々しい爽やかさを持ち続ける三枝さんを迎えられたことを喜びたい。

蓄積する顕彰と研究

 それにしても牧水は幸せな歌人だ。牧水賞では受賞者が牧水をテーマに記念講演を行い、また本紙で連載をする。このため牧水は毎年、新たな角度から評価される。

 例えば第1回受賞者で現在選考委員を務める高野公彦さんは「素朴な感情を歌う牧水」と題して講演し、第8回受賞者でやはり選考委員の栗木京子さんは「牧水の吸引力」と題し、読者を引き付ける言語センスなどを連載に書いた。

 三枝さんは1月の連載で、丸ごと身体に染み込む歌の魅力や牧水の「さびしさ」に迫った。このように牧水賞は第一線の歌人による牧水論が蓄積される“器”として育っており、県民が郷土の歌人を理解する手助けともなっている。

 没後90年の今年は各種行事も企画され、第11回受賞者の俵万智さん=宮崎市在住=が「文学界」で「牧水の恋」を連載中でもある。牧水の存在があるからこそ、本県は歌人が力を注ぐ恵まれた文化環境にあり、これを生かさない手はない。県民も大いに刺激を受けたい。

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