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核兵器禁止条約

2017年7月14日
◆「核なき世界」再生の契機だ◆

 核兵器を非合法化する核兵器禁止条約が122カ国の賛同を得て、ニューヨークの国連本部で採択された。国連総会のある今年9月に署名され、50カ国の批准で発効する見通しだ。

 同じ大量破壊兵器と表現される生物、化学兵器を非合法化する条約は既にあるが、いざ使われれば、国境に関係なく壊滅的な非人道的結末をもたらす核兵器については禁止条約がなかった。

「ヒバクシャ」を明記

 米ロはじめ核保有国とその同盟国が核抑止力を国家安全保障政策の根幹に位置づけてきたためで、核保有国に核軍縮努力を義務付けた核拡散防止条約(NPT)を頂点に国際的な核秩序がこれまで構築されてきた。

 今回の条約交渉にも、核抑止論を正当化し続ける核保有国は1国も参加せず「核の傘」の下にある日本、韓国、オーストラリア、欧州諸国もこれに歩調を合わせた。

 核兵器禁止条約は、核兵器の開発や実験、製造、保有、使用、移譲などを包括的に禁じている。底流にあるのは、国際社会で近年注目されてきた「核兵器の非人道性」という概念だ。

 また前文には「ヒバクシャ」の言葉が明記され、被爆者の被った「受け入れ難い苦しみと危害」に言及することで、核使用を絶対に繰り返してはならないという力強いメッセージを込めた。

 条約交渉を主導してきたオーストリアやメキシコなどは核兵器に「汚名を着せる」ことで、冷戦後の今も核に依存し続ける国際的な安全保障体系への挑戦を試みた。

 だが、核保有国とその同盟国は条約交渉に背を向け、米国などは採択直後に反対声明を出し敵意すら示している。唯一の被爆国である日本も条約交渉には不参加だった。「核保有国と非保有国の分断を深める」ことが理由の一つだが、「核の傘」を差し掛ける米国への配慮が働いたのは疑いない。

人類全体の安全保障

 核保有国が加盟する見通しがない中、条約の実効性はないと日米などは主張する。果たしてそうだろうか。禁止条約は、核使用が「人類の安全保障」を脅かすとの普遍的な真理と原理に立脚しており、核軍縮を進めることは「倫理的責務」だとも指摘している。

 根底にあるのは、軍事的な色彩が強い「国家安全保障」の考え方ではなく、広い視野で「人類全体の安全保障」を見詰めようとする発想転換であり、人間倫理への回帰を目指す哲学的理念だ。

 核兵器は非人道兵器として絶対悪の烙印(らくいん)が押されることになった。「核兵器観」が否定的なものに変容していく可能性がある。即座に効果が出なくても、長期的な潜在力を核兵器禁止条約は内包していると言っていい。

 日本への原爆投下で幕が開けた核時代の画期をなす条約の誕生である。近年、機運が急速にしぼんだ「核なき世界」のビジョン再生を目指す契機としたい。

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