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棒杭の商い

2019年12月8日
 高鍋藩出身の上杉鷹山が第9代藩主だった米沢藩内には「棒杭(ぼうくい)の商い」があった。棒杭に値段表さえぶら下げておけば、売る人がその場にいなくても、品物がどんなに高価でも盗む者などいなかったという。

 買った人はざるに値段表通りの代金を入れた。売った人が精算すればぴったり合った(童門冬二著「男の論語2」)。「棒杭の商い」は民の心と暮らしに余裕がなければ成り立たない。鷹山の時代に諸藩別幸福度ランキングがあったら米沢藩は間違いなく上位だった。

 本紙記者が町で拾った心が温かくなったりホッとしたりする小さなニュースのコーナーが社会面の左下隅にある「歩廊」だ。少し前、宮崎市加江田の農産物無人販売所にある「正直神社」の名を冠した小さな鳥居のことが載っていた。祭神は「ゴマカシタライカンノカミ」。

 売り物の農産物が相次いで持ち去られたために販売所を設置する田中良一さんが手作りしたが”御利益”あって盗難はぱったりやんだとか。当の田中さんは「あくまでも冗談。うちは農産物も笑いもお裾分けする販売所」と語るが、盗難に悩む他の無人販売所にとって参考になりそうな試みである。

 藩改革の目的を鷹山は「民の心の赤字をなくすため」とし、ついに住民同士の信頼厚い地域にした。7月実施のネット調査で本県は幸福度日本一になった。架空神社がごまかし防止になる土地ならば不思議ではない。「棒杭の商い」が当然の域までもう少し。

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