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封印切の真実は

2019年12月1日
 ついに一年で最後の月に入った。「早いもので」と紋切り型の表現になってしまうが、確かに早いという実感がある。年を取るほど早く感じるのかもしれないが、特に歳末は「師走」の言葉通りせわしない。

 そんな時こそゆっくり映画でも。12月1日は映画の日。日本国語大辞典によると、日本で映画が初公開された1896年11月末を記念して制定されたという。最近劇場で見た映画では、カトリーヌ・ドヌーブ主演で話題を呼んだ是枝裕和監督の「真実」が心に残る。

 大女優が発表した「真実」という自伝本に娘が「事実に反する」と反発する。貧困を見つめた監督一連の社会派作品とは違って、むしろ上流の家族劇だが、家族や他者との細かい感情の駆け引きは共通。演じることを使命とする役者にとって”真実”とは何かを考えさせる。

 映画の初公開を「封切り」という。古めかしい言葉だが、歌舞伎好きなら「恋飛脚大和往来」の「封印切(ふういんきり)」を思い出すはずだ。遊郭で、忠兵衛が預かった大金をばらまいて大見得(おおみえ)を切る場面。結局は破滅へ向かうが、「桜を見る会」で大盤振る舞いして窮地に立つ安倍首相が重なって見えなくもない。

 政治家に役者の資質は不要だ。多額の税金を使って身内に近い人に大見得を切ることも、前夜祭を含め資金の流れなどの”真実”から巧みに目をそらすこともブーイングを浴びるだけ。ひしひしと寒さが増す中、国民すべてが暖かさを実感できる施策が使命だ。

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