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喫茶ひょっこりひょうたん島

2019年11月16日
 放送ライターだった井上ひさしさんが人形劇「ひょっこりひょうたん島」の台本を山元護久さんと共同執筆していたころの話だ。放送局の近くの喫茶店を書斎兼仕事場代わりにして朝から晩まで入り浸った。

 いつも締め切りぎりぎりになるため局のディレクターばかりか人形劇団のマネジャー、美術デザイナー、はては作曲家までやって来て、みんながコーヒーやらサンドイッチやらを注文するから喫茶店の売り上げは急増した(井上ひさし著「ブラウン監獄の四季」)。

 ただし喫茶店と井上さんの蜜月時代は長く続かない。一時的にはいいけれど仕事がらみで集まってきた客の数とは比較にならないほどの常連客が離れていって最悪、店を閉める結末になった。5年ほどの期間に「少なくとも5軒はつぶした」と井上さんのエッセーにある。

 喫茶店の倒産が過去20年で最多に迫るペースで推移している。全日本コーヒー協会などによると最盛期の1981年に全国で15万4630店あったが、2016年は6万7198店と4割程度に。店主の高齢化や後継者がいないこと等に加え、コーヒー消費の多様化で経営そのものが難しくなった。

 教育学者の齋藤孝さんは自著「15分あれば喫茶店(カフエ)に入りなさい。」で喫茶店を「社会の中では珍しくニュートラルな場所」と定義する。確かに自宅でも職場でもない中間的な場所だ。そんな空間を守りたい。他の客の邪魔をせずに一杯のコーヒーを飲むことで。

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