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異国で学んだ苦闘の跡

2019年11月8日
 近代以降、日本の文学者や洋画家らが自らの芸術の源である西洋に赴いて、日本とあまりに違いが大きい文化的な背景に厚い壁を感じたケースは多い。反動から、日本文化の伝統へ回帰する作家もよく聞く。

 その相克に傷つき、あるいは異文化が融合する化学変化から創造上の何かを得て彼らは自分の道を模索してきた。県立美術館で開催中の「県美術海外留学賞歴代受賞者作品展」でも、欧州を中心に中国や米国などで1年間学んだ作家の苦闘の跡が凝縮されている。

 とはいえ鑑賞眼の未熟さゆえ、留学前からどこが変わったと明示はできない。むしろ見た目では簡単に分からないところに、作家の確固とした姿勢をうかがい知る。ただ鋭敏な作家らの感性が異境で感得したものが実に大きいことは、作品に添えた留学の感想から分かる。

 教会の天井画の世界を実際の現象で見たという河野富夫さん(ローマ)は「自分は巡礼者であり、防人(さきもり)であり、また旅人だと思った」。児玉陽亮さん(パリ)は「すべての経験が今ごろになって一つの形になってきた」。湯浅義明さん(パリ)「絵の神様が、作家としての道なき道を示してくれた」。

 留学後の作家らの活動はさまざまだ。教員として子どもに体験を伝えたり、創作に専念したり、さらに留学を続けたり…。留学賞事業は本年度派遣で終了だが、これまでの受賞者23人が得た貴重な体験は今後も熟成し、本県美術界の財産であり続けるだろう。

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