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あしたにかける橋

2019年11月4日
 小説「橋のない川」で小学校の五つの通学区ごとに子どもらが登下校時、掲げる旗のことが出てくる。紫地に白く桜の花が染め抜かれた華やかな旗だったが主人公の誠太郎は、それを持つことが苦痛だった。

 旗の下隅には、毎月末に学校から発表される字(あざ)ごとの出席率の順位を示す白線が引かれていて一番成績のいい字は1本線、次が2本線と次第に増えていく。家の事情で長欠児がぞろり名前を連ねる誠太郎の住む集落は常に5本線が入った旗があてがわれるからだ。

 旗の狙いは字ごとの競争によって出席率を向上させることだった。住井すゑが被差別集落の住民を描いた小説の時代は明治後期から大正にかけて。教育に全く理解を示さない親や学校に通わせたくても貧しく、家事、労働の担い手として必要なためにできない親が多かった。

 学齢期なのに、小中学校に通えない外国籍の子どもが国内に2万人近くいる可能性のあることが文部科学省が初めて実施した調査で分かった。住民基本台帳に登録されている約12万人のうち16%を占める。このうち就学していないことが明らかなのは約千人で、残りは状況の把握すらできていない。

 誠太郎には気の毒だが白線入り旗の発案者にはそうすべき理由があった。外国籍の子の不就学問題にも積極的に旗を振ってほしい国だ。読み書きや計算ができないことは貧困に陥る要因になる。子どもたちが日本社会に溶け込むための橋渡しだと思えばいい。

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