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吉野氏にノーベル賞

2019年10月10日
 「妻や子をかなしむ心われと身をかなしむこころ二つながら燃ゆ」。郷土の歌人・若山牧水は家族を心から愛しながら、旅へいざなう「あくがれ」の衝動も強く両極端の気持ちの間でいつも揺れ動いていた。

 とはいえ、牧水には矛盾ではなかったかもしれない。こういう歌もある。「秋かぜの信濃(しなの)に居りてあを海の鷗を(かもめ  )おもふ寂しきかなや」。山奥で紅葉に浸っていながら海に漂うカモメに思いをはせる。一方に振れるほど、対極に引きつけられる欲求が膨らんでくる。

 まるで磁石のNとS、電池の正と負。その電池でも、携帯電話やパソコンなどに使われているリチウムイオン2次電池を発明した旭化成名誉フェローの吉野彰さんがノーベル化学賞に決定した。生活の利便性を格段に向上した功績、環境技術としての期待度が評価された。

 昨夜の記者会見で研究にどういう姿勢で臨んだかと聞かれて、あきらめないしつこさ、大きな壁にぶつかっても「なんとかなるわ」という楽観性に加えて「剛と柔のバランスをどう取るかが大事」と答えていた。きっと正と負という両極端の間で、牧水のように豊かな思考を巡らしていたに違いない。

 牧水が愛した延岡市が発祥の地である旭化成の研究者。県内で何度も講演しており、県民にとって世界最高の名誉を受けたような喜びだ。今後も本県と関わる機会があると思うが、地方と世界という両極端の間にも無限の方向性があることを教えられそうだ。

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