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次郎物語と牛肉

2019年10月9日
 下村湖人著「次郎物語」にあるくだりだ。次郎の村に肉の行商が来る。学校帰りの子どもたちは行商を取り囲み包丁で肉を刻む様子を見物する。次郎はふと結核を病む母親のために牛肉を買おうと思いつく。

 急いで家に戻ると、駄賃をこつこつ貯金した十銭銅貨3枚を握ってとって返し、胸をどきどきさせながら行商に牛肉を売ってくれるように頼む。幼い次郎は自分の手の中にある小銭で、どのくらいの分量の牛肉が買えるものか見当がまるでつかなかったのである。

 美郷町のふるさと納税の返礼品の県産黒毛和牛で、「ほぼ脂身」が寄付者に送られ、町や発送した宮崎市の食肉加工会社が謝罪した。町は同社が取り扱う返礼品の受け付けを停止し、同社は同じ返礼品を送った寄付者に対して、返金や代替品を発送する準備を進めている。

 次郎の買い求めた牛肉ははかりに載せられるたびに切り取られて、みじめなほど小さなかたまりになったが肉の行商はおまけとして「脂身」の一片を加えて竹の皮に包んでくれた。わが子からの思わぬプレゼントに病気の母親も、看病のため付き添う祖母も涙ぐむほど喜んだことは言うまでもない。

 行商人が付け足した脂身はささやかな心遣いで次郎の優しさを後押ししたが、返礼品の名目で送られたほとんど脂身の牛肉は寄付者の怒りを買った。関係者は汚名返上に全力を尽くしてもらいたい。宮崎、ふるさとと名の付くもので二度と失望させないために。

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