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笑いの力

2019年8月17日
 柳家三亀松(みきまつ)という三味線漫談家が戦時中、「わらわし隊」という慰問演芸団の一員として上海の港にいたときのことだ。格納庫での慰問会を終えた一行が宿舎に戻ろうとしているところへ将校がやって来た。

 「南方行きの輸送船に部下の兵隊たちがいるのだが船外に出られない。兵のため慰問団をちょっと回してほしい」と将校は頭を下げたが慰問団付き下士官は「責任上困る」の一点張りだった(西条昇著「ニッポンの爆笑王100 エノケンから爆笑問題まで」)。

 吉本興業が反社会勢力への闇営業問題で、謹慎処分とした芸人13人中11人について19日で処分を解き、運営する劇場で仕事に復帰させると発表した。同社は「猛省し、7月末から社会貢献活動を行ってきた。活動再開後も被害防止のための啓蒙(けいもう)活動を行っていく」という。

 「困る」という下士官に「頼む、頼む」と将校は頭を下げ続けた。見かねた三亀松が「私でよかったら」と名乗りを上げる。船底に兵隊がすし詰めになった即席の舞台。数十分間の話芸と歌の独演にみんな涙を流して大喜びした。即興の慰問会が終わり、出港した輸送船は敵の攻撃で沈んでしまう。

 胸痛む出来事だが最後の笑いがせめてもの救いだ。わらわし隊は、吉本興業が新聞社と組んで戦地に派遣したお笑い部隊だった。笑いで人の力になりたいならば反社会勢力を笑わせるなどという不祥事を二度と起こさないでほしい。笑いのプロの先輩に誓って。

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