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万葉集と下着

2019年7月8日
 新元号・令和の出典になった万葉集の一首である。「紅の 濃染の衣(きぬ)を 下に着ば 人の見らくに にほひ出でむかも」。紅(くれなゐ)は末摘花、現在の名前はベニバナだ。

 この歌の衣は下着のこと。当時、契りを結んだ男女は下着を交換する風習があったそうだ。「にほひ出でむかも」というくだりには「女性に逢ったことが知られてしまうかも」という意がある(文/写真=大貫茂「古歌でたどる花の履歴書万葉の花100選」)。

 米タレント、キム・カーダシアンさんが矯正下着のブランド名を「キモノ」とする計画を発表したところ「伝統文化への侮辱」と非難が殺到。英ビクトリア&アルバート博物館からも着物は「日本文化の象徴」とのメッセージがあった。

 カーダシアンさんは激しい批判が巻き起こったことを受け撤回を表明。新名称を近く公表するとツイッターで明らかにした。賢明な判断だ。そもそも体形に関係なく着こなせる日本の着物である。「キモノ」を矯正下着のブランド名にするなど見当違いも甚だしい。

 万葉集収録の「くれなゐ」を題材とした歌は29首。ただし花そのものを詠んだものは2首のみ。そのほかは染められた衣を詠んだものだという。目立つ色に染まることもあって、万葉人の装いには欠かすことのできない染料の元だった。

 洋の東西、今昔を問わず、他人の目に触れない下着にさえこだわってきた民族それぞれの着衣の文化がある。世界的な有名タレントのとっぴな発想で、驚天動地の騒ぎになったが日本人自身が着物の価値を見直すきっかけにしたいものだ。

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