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自動投了機

2019年6月24日
 将棋や囲碁の対局では負けたか、もしくはどうあがいても無駄と覚悟した棋士が「負けました」とか「ありません」と言う。ゲームセットを宣言するのは勝者ではなく敗者。

 潔い態度だなぁ、と思っていたがプロ棋士たちでも「負けました」となかなか言えないことがあるそうだ。投げ切れない状態でもう一手指す(打つ)とか、のどが乾いてもいないのにお茶をすするなどする(先崎学、北尾まどか著「先崎学のすぐわかる現代将棋」)。

 安倍晋三首相がおとといのインターネット番組で、夏の参院選の勝敗ラインに関し「自民党と公明党の与党で過半数確保だ」と述べた。首相が獲得議席について目標の数値を口にしたのは初。しかし、その目標はいささか低すぎないか。

 近年の参院選において両党が獲得した議席数に比べて低めの設定にとどめ、現有議席を減らした場合でも党内から責任論が噴出するのを封じたいとの思惑が透ける。しかも改選議席の過半数なのか非改選を含む過半数なのか、大事な点を明言せず曖昧さを残した。

 「3月のライオン」の作者羽海野チカさんとの対談で、将棋棋士の先崎学さんが面白いことを語っている。「要は負けました、と自分で口にするのが嫌なんだからボタンを押すと、明るい声で代弁してくれる自動投了機を作ったらいい」。

 対談でのジョークから棋界のプロの胸の内が読み取れる。政治家もたぶん同じだろうが、選挙の勝敗ラインについては与野党トップそれぞれが高い目標を掲げて、実現のために最善を尽くしてほしい。負ければ潔く認め、身を引く覚悟で。

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