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眉山

2019年6月22日
 東京の旅行代理店で働く主人公は、故郷で暮らす母親が余命数カ月と知らされる。最期をみとるため帰郷したところ、母親が自分に黙って献体を申し込んでいたことを知る。

 さだまさしさんの小説「眉山(びざん)」だ。最初は衝撃を受けたキャリアウーマンの主人公だったが、若い勤務医と心を通わせながら医学生の解剖学実習に必要な献体に、わが身を差し出すことを決意した母の気持ちを理解していく。献体をモチーフにした親子愛の物語。

 宮崎大医学部生の解剖学実習に、自らの遺体の無償提供を意思表示した人たちでつくる宮崎大白菊会の献体者が千人となった。1974年発足した会には現在約900人が登録していて、年間25人ほどが亡くなって献体しているという。

 30年前、同学部(当時は宮崎医科大)の解剖学実習を取材した。2年生後期から解剖学の講義が始まり3年生の4月から延べ180時間の実習が行われていた。取材は6月中旬だったが、授業に先立って献体された遺体に学生が黙禱(もくとう)する姿が目に焼き付いている。

 全国的に解剖学実習のための遺体数が不足していた頃。大学によっては身元不明の遺体によって不足分を補っていた。宮崎も十分ではなかったが他県の大学医学部に比べて必要数に近かったのは白菊会の活動に負うところが大きかった。

 「眉山」に登場する若い医師は宮崎医科大卒。物語のエピローグは彼の解剖実習感想文集の言葉だ。遺体を棺(ひつぎ)に戻した時、故人のパイプに気付き生前の姿を思い、涙して、誓ったという。「きっとご恩に報いる、良い医者になりますから」

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