ホーム くろしお

漁夫の利はだれか

2019年6月15日
 大洋に浮かぶ民間船は孤立無援。軍艦でもない限り、海賊に襲われたら手の打ちようがない。そんな恐怖を2013年の米映画「キャプテン・フィリップス」が描いていた。


 アフリカのソマリア沖で海賊に乗っ取られたコンテナ船の実話。トム・ハンクス演じる船長が知恵と勇気を振り絞って船員たちを守る話だが、映画の冒頭には、ソマリアの貧しい漁師らがボスに強要されて海賊に身を投じる事情が意外なほど丹念に描かれている。


 不幸な境遇に船長が同情して、彼らが漁師に戻るように説得する場面もある。しかし金に目がくらんで犯罪行為をエスカレートさせる海賊に心底怒り、対決する船長の放った言葉が最も印象的だった。「おまえはもう漁師じゃない!」。


 民間船への傍若無人な振る舞いに戦慄せんりつしたのがイラン沖のホルムズ海峡で発生したタンカー攻撃事件だ。積み荷を奪い、船員を人質に身代金を要求しようとした様子はない。沈没や破壊が直接の目的にも見えない。海域の航行に恐怖心を植え付ける意図を感じる。


 日本の海運会社のタンカーはパナマ船籍。乗組員すべてフィリピン人でサウジアラビアからシンガポールに向かう途中だった。日本の暮らしを支えるエネルギーが複雑で国際的な提携の上にあって、しかも危うい現実を見た思いもする。


 国際的な均衡を揺さぶって”漁夫の利”を得ようとしているなら、もとより漁師による海賊の攻撃とは思えない。折しもイランで、同国と米国の緊張緩和を働き掛けていた安倍首相は水を差された格好。国際社会が許してはならない蛮行だ。

このほかの記事

過去の記事(月別)