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イワンのばか

2019年6月7日
 トルストイの民話に「イワンのばか」がある。働き者で無欲のイワンは、強欲の兄たちに土地も馬も穀物も分け与える。財産争いを期待する悪魔の親方はそれが面白くない。

 手下に命じて兄らを破滅させることには成功するが正直者のイワンだけはうまくいかない。腹痛を起こさせても畑仕事の手を抜かず、逆に手下はイワンにとらえられる。悪魔は痛み止めの根や兵隊を出す呪文や葉っぱを金貨に変える方法と引き換えに許しを請う。

 イワンはロシアでは、ごくありふれた男性の名前の一つ。民話のキャラクターとしてもしばしば登場し、その多くが純朴、正直。第1次世界大戦中、東部戦線のドイツ軍はロシア軍兵士のことを親しみを込めて「イワン」と呼んだという。

 民話のイワンは何でも譲る愚直な人物だったが、北方領土を占領、支配してきたソ連、ロシアの指導部にイワンのような人物は見当たらない。ただし日本が連合国と結んだサンフランシスコ平和条約で、ソ連の主権が明記されていないことは気にしていたらしい。

 領有を主張する上での弱点とソ連指導部が認識、対日交渉で主権確認を求める方針を決めていたことが2日、機密指定が解除されたソ連文書で判明した。ロシアが主権確認を強く迫る背景に帰属が確定していないとの懸念があるようだ。

 返還で日ロ双方に利益のある未来が築ける。問題解決に軍隊も呪文も必要ない。誠意ある交渉を重ねればいい。日本側にも戦争で領土を取り戻すことの是非を口にした「議員のばか」がいた。過ちを認めることが交渉の大きな一歩になる。

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