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牧水に会った井上靖

2019年5月21日
 歌人で宮日文芸歌壇選者の伊藤一彦さんが井上靖記念文化賞・特別賞を受賞した。宮崎市在住で歌壇の第一人者として活躍する伊藤さんの新たな栄誉を県民の誇りにしたい。

 贈呈式があったのは作家井上靖さん(1907~91年)の出生地・北海道旭川市。伊藤さんは、「心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会」などを通して高齢者やその家族に喜びを与えた活動、全国の高校生が競う「牧水短歌甲子園」(日向市)の発案などが評価された。

 若山牧水記念文学館(日向市)館長を務めるなど牧水研究にも実績のある伊藤さん。旭川にたつ前に話を聞いたが、「思いがけない受賞」を喜び「選考理由とは関係ないが、牧水と井上靖の邂逅(かいこう)についても紹介できれば」と話していた。

 調べたら、新潮社刊の井上靖全集第24巻に「牧水のこと」という文章があった。沼津中学(静岡県)の生徒だったころ、同じ沼津に牧水が住むことを誇りにしていたが、高名な歌人を訪ねていく勇気はなかったという。ところがある日、橋の上で、ばったり遭遇。

 それでも「飄々乎(ひょうひょう こ )とした感じはやはり近寄りがたい」「老成した歌人が自分とは無縁に歩み去った」と見送った。当時、牧水は30代後半。既に大家の貫禄があったようだ。井上さんはほかにも牧水歌集の推薦文などでも牧水に触れている。

 旭川には悪いが、井上靖作品は伊豆の印象の方が強いか。それでも旭川は、三浦綾子著「氷点」の舞台などでもあり、伊藤さんも楽しみにしていた。風土と文学について思いを深くして、さらに本県の文化発展に還元してくれれば幸いだ。

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