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フグの尻尾はヒレ酒に

2019年5月20日
 およそケチとは無縁なイメージの作家ふたりがとある雑誌の企画で食事をしながら対談した。吉行淳之介さんと村松友視さんだ。囲んだのは名のある老舗のフグ料理だった。

 すっかり平らげたが皿にフグの尾びれが残った。村松さんが「この尻尾はどうするんだろう」と問うと吉行さんがちゃめっ気たっぷりにこう答えたという。「チリ紙に包んで家へ持って帰って、夜中に焙(あぶ)ってヒレ酒にして飲む」(塩田丸男著「言いわけ読本」)。

 吉行さんは他界し、再対談は実現不能だが、もしかなえば面白いことを言って世間をにっこりさせたことだろう。セブン-イレブン・ジャパンが弁当など消費期限の近づいた食品の購入者にポイントを提供する還元策を今秋から始める。

 ローソンも同様の還元策を来月から愛媛、沖縄県で実験し、全国展開も検討すると発表した。両社の試みには廃棄損失を減らすことで、人件費の上昇に苦しむ加盟店を支援する意味合いもあるが、日本全体で膨大な量に達する「食品ロス」を減らすことにつながる。

 吉行さんは大正13年、村松さんはひと回りほど若い昭和15年の生まれだった。同時代の男性がかくありたいとあこがれる人物だったとはいえ敗戦直後の食糧難を記憶している。食べ物を残す、捨てるということに強い抵抗があったはずだ。

 対談で吉行さんはこうも語っている。「ケチって一種の合理主義。美徳みたいな面もある」。コンビニの取り組みはいいことだ。でも食品ロスの4割超は家庭から排出され、主因は食べ残し。もっとケチで合理的に。日本人の課題である。

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