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ぼけを楽しむ社会に

2019年5月18日
 長屋に少しぼけて耳も遠い老夫婦が住んでいた。ある日、大家に似た人が長屋の前を通り過ぎるのを見たおじいさんが言った。「今通ったのは大家さんじゃなかったかい」。

 それを聞いたおばあさんは手を振って言った。「いやいや違います。あの人は大家さんですよ」「おやそうかい。わしはてっきり大家さんと思ったんじゃが」。2人の会話が絶妙のかけ合いになっている。この笑い話を読んだ人の感想だ。「ぼけるのも悪くはない」。

 認知症対策を強化するため政府は有識者会議で、「予防」を重要な柱とした2025年までの新たな大綱の素案を示した。認知症の人数を抑制する初めての数値目標を導入。70代の認知症の割合を6年間で6%低下させることを目指す。

 予防策としては運動や人との交流が発症を遅らせる可能性があるとして、公民館など身近な場所での体操や教育講座を想定する。素案には治療法の開発強化も盛り込まれていて治療薬の臨床試験に、認知症になる可能性がある人の参加を増やす仕組みを構築する。

 だれしも自分が認知症になることに不安を覚える。しかし加齢による体力、知力、気力の衰えを完全に食い止めるのは不可能。免疫学者の藤田紘一郎さんのように「老人がまったくボケなくなってしまうのも困る」と指摘する人もいる。

 きのうの本紙でアルツハイマー型認知症患者の声を紹介していた。「不便ではあるが不幸ではない。できることもたくさんある」。数値は緩やかな努力目標にして、目指したいのはぼけた人とそうでない人が日々笑い合って暮らせる社会だ。

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