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賢者の贈り物

2019年4月10日
 妻のデラはひざまで届く髪、夫のジムは父祖から受け継ぐ懐中時計。クリスマス前夜、貧しい夫婦がそれぞれ一番大切なものを売ってプレゼントを買うためのお金を工面する。

 売って得たお金でデラは金製の時計に釣り合ったプラチナ製の鎖を、ジムは妻の髪を飾るにふさわしいべっ甲細工のくしセットを買った。鎖を付ける時計はもう手元になく、くしを飾るはずの髪は失われてしまったがこれ以上、心のこもった聖夜の贈り物はない。

 時代を超え、読み継がれるO・ヘンリー短編を思い出させる新聞記事があった。ギネスで昨年「世界一髪の長い10代」と認定された鹿児島県出水市の川原華唯都(けいと)さんが髪を切り、医療用かつらを扱うNPO法人に寄付するというニュース。

 ヘアドネーションは美容室で髪を切って「寄付」すると、その髪が医療用かつらになり、がんや無毛症、不慮の事故などで毛髪を失った子どもたちにプレゼントされる活動。髪の寄付を支援しているNPO法人によるとロングヘアのかつらは不足しがちだという。

 明智光秀が貧しく、寺子屋の師匠をして生計を立てていた頃、連歌会当番の折、妻の煕子(ひろこ)が黒髪を切り売って客をもてなし光秀の面目を保った。こんな逸話が語り継がれるのも髪が日本では命に等しいほど大切なものだったからだろう。

 串間市出身の美容師渡辺貴一さんがNPO法人設立に関わるなど本県はヘアドネーションと縁が深い。髪の長さ31センチ以上で極度のいたみがないという条件があって、手入れも大変そうだが県内でも広がってほしい「賢者の贈り物」の輪だ。

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