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高速タックルの引き際

2019年1月10日
 衰えを自覚した時にきっぱりやめる。トップに立てなくても力が尽き果てるまで戦い続ける。どんなに強いスポーツ選手にも引退の時期が必ず来るが、迎え方はさまざまだ。

 引き際には、それぞれの美学や競技哲学が最も端的に表れるのかもしれない。技を追究する姿勢や統率力を求められるスポーツ選手はよく時代劇の侍や西部劇のガンマンに例えられるが、有力選手の引退に接すると思い出すのが1948年の米映画「赤い河」だ。

 優れた牧場主(ジョン・ウェイン)が経営改善のため、1万頭の牛を連れてよその地へ移る。見違えるように成長して南北戦争から帰ってきた養子(モンゴメリー・クリフト)も手伝うが、古い手法にこだわる牧場主とけんかしてしまう。

 銃の腕も人望も上回った養子に圧倒されて、途中置き去りにされる牧場主の姿がみじめだ。能力の低下を自覚しているが認めたくない彼は、仲間を集めて追跡し、再び養子と対決する。トップに立つ者がいつ引退し、後進に道を譲るべきか考えさせる映画だった。

 五輪3連覇など最強伝説を誇るレスリング女子吉田沙保里選手が現役引退する。身上の高速タックルさながらの鮮やかな身の引き方だ。指導者だった父に「ぼろぼろになるまで続けるな。王者のまま引退しろ」と教示されていたという。

 平成の終わりにサッカーJ1の中沢佑二、楢崎正剛選手の引退発表も重なった。感傷的になるが、全力で見せたプレーに感謝し、引き際の決断を尊重したい。それぞれの立場で競技の発展に貢献してくれるはずだ。若い後進は育っている。

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