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「えべっさん」の正体

2019年1月1日
 いかにも正月らしく書けば「えべっさん」の総本社、西宮神社(兵庫県)の「開門神事福男選び」で、重い門扉が開くと同時に、怒濤(どとう)のように押し寄せる人の波のイメージだ。

 ただし、やって来るのは「福男」を目指す若者たちの群れではない。牛肉や豚肉を中心とした安い農産物。昨年暮れ、日本を含む11カ国が参加する環太平洋連携協定(TPP)が発効、世界の国内総生産の13%を占め、域内人口5億人を超える経済圏が誕生した。

 政府や経済界は日本にプラスになると宣伝する。だが輸入食品との競争を強いられる農家の不安は払しょくできていない。自動車などの工業製品の輸出の伸びよりも、農業衰退によるマイナスの方が大きい、と懸念を抱く専門家もいる。

 日本養豚協会の香川雅彦会長が本紙記者のインタビュー(12月30日付)で答えているように「国や県の試算はあるが実際の影響額は誰にも分からない」というのが本当のところだ。論争の決着はつかず日本が交渉入りした2013年7月からほぼ変わっていない。

 じつは「えべっさん」の正体は諸説あって不明。農山村、漁民の信仰を町の商人たちが幸をもたらす福の神に仕立てて、販売促進イベントにしたのが「えびす講」の始まりだとされている(大木紀元著「日々の?!なるほど歳時記」)。

 正体不明のTPPに打ち勝ちたい本県だ。香川会長も「消費者に選ばれる肉質を追求していくしか生き残る道はない」と前を向く。周囲にも福を分け与えるという福男が今年次々登場してほしい。その数が多ければ脅威はチャンスになる。

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