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一隅を照らす

2018年12月31日
 「篤農家(とくのうか)」という言葉がある。農業に携わりその研究・奨励に熱心な人。今はほとんど使わない言葉だが、もとより目立ちにくい存在で、実際には県内の農村でよく出会う。

 この1年で心に残る言葉を振り返った時、いろいろあって選ぶのに苦労するが、個人的には、市井にあってこつこつ実績を積み上げた人の言葉が印象に残った。特に功あり名を挙げた、というわけではなくても、厳しい実践の場から生まれた言葉は凜と胸に響く。

 一つは故人だが、秋田県の篤農家で知られる石川理紀之助(1845~1915)の「寝ていて人を起こすことなかれ」。自分が寝ていて他人にやらせてはいけない、という意味。「まず自分が先頭に立って手本になれ」という戒めだ。

 実際だれよりも早く起き、貧しい村の再建のため農作業に従事した。夏の甲子園で決勝まで沸かせた秋田県立金足(かなあし)農業高校のグラウンドに、この言葉の石碑が立つと知った。石川は請われて、都城市山田町谷頭で農業指導や教育を行い、今も深く敬愛されている。

 もう一つはスーパーボランティアこと尾畠春夫さんの座右の銘「かけた情けは水に流せ、受けた恩は石に刻め」。行方不明の男児救出で広く世間に知られるようになったが、全くぶれない姿勢に地に付いた人助けの哲学をうかがわせる。

 「一隅(いちぐう)を照らす、これ即(すなわ)ち国宝なり」。最澄の言葉は、人が自分の使命を自覚し仕事に励めば、世の中が平和に栄えるということだろう。本紙が県内の隅々でがんばる国宝の人を照らし、後押しする役割を果たせるように来年も努めたい。

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