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手塚治虫生誕90周年

2018年11月3日
 きょうは漫画家の草分け的存在で、日本アニメ界の先駆者でもあった手塚治虫さんの生誕90年記念日。駆け出しの記者だったころ本人を取材したことがあるので思い出話を。

 漫画、アニメーションの神様に直接会って取材したのならばきっと手塚漫画ワールドについて紙面1ページ埋めるほどの対談特集くらいは書いたんだろう、と思われるはずだがまったく違う。記事は本紙3面(当時は2面)の隅に毎日載っている「旅のひとこと」だった。

 小さなコーナーと知っても手塚さんは取材に応じ、延々2時間も語り続けた。その表情が楽しげで生き生きしていたことが印象に残る。漫画とアニメを混同した質問にも「記者さん、勘違いしてますよ」と怒らず、笑って訂正してくれた。

 自慢話ではなく失敗談の方の比重が大きかった。ディズニーやポパイなど米国の作品は1秒間に20枚以上の原画を使用しているが「鉄腕アトム」は手間と経費を省くために6~8枚。当然ぎこちない動きになり日本アニメの「悪(あ)しき先例を作った」と頭をかいた。

 医師免許を持つ医学博士だが「医者の不養生」を地でいくような人だった。がん検診も受けずに漫画を描くことに没頭していたのだろうか。たくさんの仕事を抱えたまま60歳で亡くなった。世に出なかった作品のことを思うと残念至極。

 「ジャングル大帝」の世界観で分かるように強者による抑圧や不平等、格差を憎んだ。もし生きていたら、たとえば性的少数者に対する偏見や移民問題にも鋭く切り込んだはずだ。はっとする切り口で優しく胸が詰まるストーリーにして。

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