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積み木くずし

2018年10月24日
 俳優の穂積隆信さんが胆のうがんのため死去した。87歳。学園ドラマの教師役がぴったりの役者だったが、演技より記憶に残るのは1982年に出版された一冊の体験記だ。

 一人娘の非行と更生までの経緯をまとめた「積木くずし~親と子の二百日戦争」。家庭内の地獄が赤裸々につづられた本は約300万部のベストセラーになり同じ境遇に苦しんでいる親子の救いになった。どこの家でも起こり得る問題でいつか終わりの日が来ると。

 またもや建物の安全を支える免震装置に、重大な裏切り行為が発覚した。油圧機器メーカーのKYBと子会社で検査データの改ざんが脈々と引き継がれ病院、マンション、教育施設などへデータを改ざんされた装置が納入されたという。

 3年前に表面化した東洋ゴム工業の免震偽装を規模で上回る。製品の性能をチェックする検査員がたった一人しかいなかったとの証言もある。免震・制振装置で、シェアが約4割の国内トップメーカーでありながら安全性を軽視していたことが浮き彫りになった。

 「積み木くずし」は80年代、子どもの非行と家庭崩壊の代名詞になったが、まさに言い得て妙だ。こつこつ積み上げたものが一瞬で砕け散り、がらがらと音をたてて崩れ落ちるさまが目に浮かぶ言葉である。立て直すのは容易ではない。

 似た不祥事が続きデータ改ざんという嫌な言葉が日数を置かず耳に入ってくる。企業の代償は大きい。地道に積み上げた信用の積み木が一瞬で崩壊する。KYBと子会社にはとても二百日では終わらない信用回復への道のりが待っている。

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