ホーム くろしお

ちぐはぐな部品

2018年9月12日
 秘密情報部員のエヌ氏。対立国に侵入してミサイルの秘密を調べてくる重要な任務を上司から受ける。「これを持っていけば、数人前の働きができる」とカメラを渡された。

 星新一の短編集「ちぐはぐな部品」にある「万能スパイ用品」。上司は「ただのカメラではない。秘密研究所で開発した逸品だ」と自慢げに多機能ぶりを説明する。なるほどラジオや無線機、気圧計、催眠ガスの発生装置が付き、レンズは望遠鏡や顕微鏡になる。

 時限爆弾としても使える。感心したエヌ氏。「必ずや相手の秘密のすべてを撮ってきましょう。それで撮影の方法は?」。質問された上司は困った顔で「そこまでは気が付かなかった。その性能はない。私の腕時計型カメラを貸そう」。

 最先端の技術を盛り込んでも肝心な部分が抜けたちぐはぐさ。そんな印象を北海道地震による道内全域停電に受ける。震源近くの北海道電力苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所が緊急停止したのは仕方ない。しかし周波数の乱れを避けるため他の3カ所の火力発電所も止まった。

 こういう事態に備えて本州からの送電線網がある。だが直流を交流に変換するための電気がない。怖いのが泊原発でも外部電源が一時すべて失われたことだ。非常用の発電機でしのいだが、万能カメラと違って全く笑えない事態だった。

 台風21号の冠水で停電した関西空港も似ている。東日本大震災の津波で電気供給の設備が浸水した原発や空港の教訓は生かされたのだろうか。電力だけではない。文明の粋を結集した防災態勢にちぐはぐさがないか、いま一度点検したい。

このほかの記事

過去の記事(月別)