ホーム くろしお

金次郎のわらじ

2018年7月8日
 報徳記に紹介されている二宮金次郎の逸話だ。わらじを編み、売った金で一日一合酒を買い、父に飲ませた。両親への孝、主人への忠が絶対だった時代ならば文句なしの美談。

 だが今、読むとかなり違和感のある話である。金次郎は山でたきぎを刈り集め、家計を助けたとも伝わる。こっちの方はまあ良し、としても親の嗜好品(しこうひん)である酒を子どもが働いて買うなど現代の感覚ではもっての外だろう(木原武一著「大人のための偉人伝」)。

 低所得世帯の子は、乳児期に体重が増えないまま成長する発育不全のリスクが高所得世帯の約1・3倍になることが北里大などの調査で分かった。十分な食事を与えられず、忙しいなどを理由に育児放棄されているケースがあるらしい。

 生後間もない乳児を分析した研究は、日本では珍しい。乳児期体重の増加不良はその後の発育や認知能力にも悪影響を及ぼすとの研究結果もあるそうだ。子育て、貧困層への支援が充実している外国の調査では親の所得と子の体重に関連がないことも分かっている。

 大人になった金次郎にこんな趣旨の言葉がある。「聖人には実は、大欲があり一番欲深い。賢人、君子がその次で、凡夫のごときはもっとも小欲である」。大欲とは、万民の衣食住を充足させ、幸福にしたいと欲することで私利私欲ではない。

 昨日より今日、明日と少しずつでも体重を増やしてあげたい乳児だ。万民の衣食住を充足しようなどという聖人の大欲は持たずとも、ひとり一足日々、わらじを編んで赤ちゃんの腹を満たす程度の小欲は持ちたい。凡夫といえども、である。

このほかの記事

過去の記事(月別)