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無口だった死刑囚

2018年7月7日
 友好交流のため中国へ赴いた際、松本智津夫死刑囚と同行したという県内の文化関係者(女性)がいる。手元にある彼の略歴には記録がないが、1976年10月のことという。

 「中国の鍼灸(しんきゅう)に興味がある」と、やや強引に訪問団に加わった。派手なチェックのスーツを着た21歳の青年は無口だったが、行く先々で勝手な行動が目立つことに。禁止されていたのに、ホテルから行き先を告げずに抜け出す。何度か注意したが反省の色がない。

 あるホテルでは、やはり禁止だった屋上からの写真を撮り、団員全員のフィルムが中国当局に没収された。「『麻原彰晃』がテレビに出た時はすぐぴんときた。あの時、もっと厳しく世間のルールを教えればよかったか…」と女性は嘆く。

 法務省は昨日、宗教団体の元代表・松本死刑囚ら7人の刑を執行した。身勝手な野望のために関係ない人々の命まで次々と奪った犯行を振り返ると、宗教家よりもテロリストと呼ぶ方がふさわしい。本県でも小林市の元旅館経営者を拉致する事件を起こしている。

 教団の全容が明るみになって、高学歴を含む多くの若者が信者であることに世間は驚いた。反社会的な教え、行動になぜ彼らは引き付けられたか。冗舌になっていた首謀者は裁判中、事件の真相については若いころのように無口だった。

 邪悪な妄想を実行に移した精神、盲信して従った信者の動機、信仰を捨てず今も世間から隔離した集団生活を送る信者の心。刑が執行されても被害が戻らないむなしさを癒やすには、一連の事件の底流に潜む現代の闇を解明するしかない。

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