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ギリシア叙事詩と虫めづる姫

2018年6月28日
 堤中納言物語の「虫めづる姫君」は、恐ろしげな虫をかごに入れ観察する風変わりな女性だ。「毛虫が考え深そうな様子をしているのに心ひかれる」と手のひらにはわせる。

 ただの変わり者ではなく、深い思慮を持つ人格者でもあった。「花よ、チョウよと美しいという理由だけで褒めるのは、考えが浅い」と言い、人にとって大切なのは誠実な心と看破する。平安時代に書かれた物語が後の世、アニメーターに大きな影響を与えることに。

 宮崎駿監督によると「風の谷のナウシカ」は、「虫めづる姫」と古代ギリシャ叙事詩に登場する足が速く、世俗的幸福を求めず、音楽と自然を愛する王女が結びつくかたちで誕生したという。異なる時空を包み込む想像の広がりに脱帽。

 宮崎市の県立美術館で「スタジオジブリ・レイアウト展」を鑑賞した。2008年からソウル、香港、パリを含む21都市を巡回し、国境を超えて人々を感動させた同展の国内開催は宮崎市がフィナーレ。1400点余りをまとめて見ることのできる最後の機会だ。

 一枚一枚眺めていて、レイアウトとは例えば巨大な戦艦か空母の設計図のようなものではないかと気づいた。精緻で美しく無駄な線は一本もない。それぞれは静止しているが組み合わされた瞬間スクリューを回して、ゆっくり動きだす。

 「虫めづる姫」の看破した、人として大切なものはジブリ作品の底流でもあり伝えたいテーマのひとつだ。「風の谷のナウシカ」がどういう経緯で着想されたか。その背景を知れば日本の古典文学の素晴らしさにも、あらためて気づくだろう。

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