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十字路に立って

2018年6月9日
 めぐみさんが拉致された道を歩いた。日本海に近い住宅街。風にかすかに潮の香が混じる。部活を終え学校を出た彼女は自宅までの下校路で北朝鮮の工作員に連れ去られた。

 海側に向かって約220メートルの十字路までは友だちと一緒だった。40年以上経過した今もはっきり確認できているのはそこまでだ。警察犬の捜索では十字路からさらに海側に進み自宅方向へ曲がる丁字路で痕跡が途絶えたとされるが、諸説あって真相は分からない。

 米朝首脳会談を前に、トランプ米大統領が「最大圧力」の金看板を下ろしてまで北朝鮮に歩み寄り、共同文書作成を目指しているという報道に懸念を覚える。中国がお墨付きを得た、とばかりに中朝貿易を活発化させれば元のもくあみだ。

 先週、米朝会談をめぐる北朝鮮側の言動が激しくぶれていることに触れ、独裁者と替え玉が日替わりで登場しているようで戸惑うと書いたが、独裁体制のトップが理由もなく方針転換するはずもない。態度を決める要素は体制が維持できるか、否か、それだけだ。

 めぐみさんとは、横田滋・早紀江さん夫妻のまな娘。拉致現場を訪れた前日、同じく拉致被害者で母親の帰国を待つ曽我ひとみさんの講演を新潟市内で聴いた。曽我さんは「あの国(北朝鮮)は徐々に傾きかけているのでは」と語った。

 裏返せば金正恩(キムジョンウン)氏が米国にすり寄ろうと思うほど圧力の効果が出たということ。緩めればたちまち拉致問題は蚊帳の外だ。めぐみさんを取り返し真相を知る。その時まで絶対、圧力を緩めてはならない。あの十字路に立てば誰でもそう思う。

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