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鬼になる親

2018年6月8日
 巡礼の旅で粗末な小屋に泊めてもらった山伏。そこの老女に「奥はのぞくな」と言われたが、彼女の留守中にのぞくと人骨の山。逃げ出した山伏を、鬼になった老女が追う。

 能「黒塚(くろづか)」。「安達ヶ原の鬼婆」という伝説に由来しており、福島県二本松市には黒塚という鬼婆の墓もある。伝説では、女はかつて主家の幼君の病気を治すために長旅へ。その目的のために旅先で殺した少女が、実は残してきたわが娘だったという過去を持つ。

 歌人馬場あき子さんは著書「鬼の研究」で、伝説が人々に語り継がれた背景に、女の本性がはじめから鬼ではなかったと納得したい感情を読み解く。女が鬼に変貌したのは「極限的な心情の混乱」によって追い詰められていたからだ、と。

 狂気をはらんだ非情な心を鬼とするなら、この夫婦にはいつ鬼がすみ着いたのだろう。5歳の娘に暴行を加え、死亡させた疑いで父親と母親が逮捕された東京の事件。十分な食事を与えられず医者の診察も受けられなかった女児のノートが悲しすぎてやるせない。

 「もうおねがい ゆるして」「きょうよりかあしたはもっとできるようにするから」。悪いのは自分で、何とか親に認めてもらいたい。5歳児とは思えないほど利発で、けなげで、必死な訴えに人の心があればだれもが泣くはずだが…。

 岩手でも虐待で1歳9カ月の長男を死亡させたとして父親が逮捕されたばかり。人間の本性に鬼が巣くったとは思いたくないが、同種の事件に接するたび、児童保護のため社会がもっと家庭に介入できる余地があるのではと考えてしまう。

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