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正義にかなう取引か

2018年6月6日
 米国の映画ではよく見るが、遠い世界の話と思っていないだろうか。他人の犯罪解明に協力する見返りに、自分の刑事処分を軽くしてもらう司法取引が日本でも導入された。

 その米国で、まさに司法取引を真正面から問うサスペンス映画があった。2009年の「完全なる報復」。凄惨(せいさん)な場面が多いのでお茶の間向けにはお薦めできないが、主人公の怒りを裏付けるそういう描写も法制度の危うさを鮮明にするためには有効とも思えた。

 自宅に押し入った男2人組に妻と娘を惨殺されたクライド。男2人は逮捕されるが、有罪に持ち込める決定的な証拠がない。検事は主犯格の男と司法取引をして証言を得る。1人の男には死刑判決が下るが、主犯格の男は軽い刑で済む。

 納得いかないクライドによる犯人への報復。ここまではよくある話だが、彼は刑務所に収監されてからも、綿密な計画で事件当時の検事や判事へ危害を加える。その執念を周囲は理解できないが、彼の行動が法制度への挑戦、問題提起であることが分かってくる。

 日本版司法取引は、被害者感情を考慮し、殺人や強盗などは対象にしていない。対象犯罪は薬物・銃器関連、贈収賄など。末端の容疑者や被告の協力で巨悪を摘発できるのも確かだ。だがうそをついて無実の他人を巻き込む危険もある。

 映画は、成績を上げるために取引を利用する司法関係者に厳しい視線を向ける。今後、検察官や弁護士は難しい判断を迫られるが、犯罪者らと取引することが本当に全体の正義にかなっているのか、たえず自らの良心に問いかけてほしい。

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