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世界を変える少女の泣き声

2018年6月4日
 以前は歯科医院の待合室に、必ず泣きわめく子どもがいた。虫歯が痛いからだが、聞こえてくるキーンという音が恐怖をかき立てたようだ。最近ではあまり泣く子を見ない。

 予防意識が高まったおかげか。実際、統計によると虫歯のある子どもの割合はこの40年で激減している。一方で共働き世帯の増加や子どもの貧困が原因で「医院に連れて行けない」などを理由として歯の健康格差も広がっている。今も虫歯で泣いている子がいる。

 今日は「ムシ」の語呂から、日本歯科医師会が戦前に設けていた「虫歯予防デー」。現在は10日までが「歯と口の健康週間」になっている。子どもの貧困が家庭だけの問題で済まないように、子どもの歯の健康は社会で考えたい課題だ。

 明治時代末期、与謝野晶子に「芳子の虫歯」という童話がある。お菓子が好きな子ども芳子は度々虫歯になる。医院で薬をもらったが「お母さん痛いよう、本当に痛いよう」と畳に顔をすりつけながら泣いている。「すぐ治りますよ」と優しくなだめるお母さん。

 氷嚢(ひょうのう)を当てるが泣きやまない。大声を聞きつけお姉さん、次いでお兄さん、お父さんもそばに来て慰める。万策尽きて芳子はお母さんの膝枕で寝入る。夢の中でこびとがつるはしで虫歯をこつこつと退治。目覚めたら痛みは去っていた。

 晶子の童話には、少女の泣き声で軍隊が逃げだす話もある。解説によれば、最も弱い存在が暴力を駆逐する痛快さに平和への祈りを込めている。虫歯に泣く子も次々と人々を引き寄せる。格差社会を変革する力を秘めているのかもしれない。

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