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母の日

2018年5月13日
 迦陵頻伽(かりょうびんが)という鳥がいる。といっても仏教における想像上の鳥で上半身は人間の姿。極楽浄土で歌っており、これ以上はありえないと思える美しい声だ。

 今年2月に90歳で亡くなった作家の石牟礼道子さんが、西都市出身のカウンターテナー歌手・米良美一さん(46)の歌を聴いて迦陵頻伽に例えていた。「もののけ姫」の主題歌で知られる米良さんは、先日は宮崎国際音楽祭にも出演するなど活躍の場を広げている。

 水俣病の実態を文学として描いた「苦(く)海(がい)浄土(じょうど)」の著者である石牟礼さんは熊本県天草郡の出身。米良さんの歌に「原初の頃、生類たち、つまり草の祖(おや)たちが夢見ていた美なるもの」として、豊かで純粋な九州山地の自然を感じたという。

 その二人が母にまつわるそれぞれの文章に対談を加えて、数年前「母」という本を出している。分野が違い年齢も離れた二人だが、育んでくれた九州の自然や両親への感謝で意気投合。素直な思いを方言で語るので、親戚のような親しみやすさで心にしみてくる。

 包容力のある石牟礼さんの人柄のおかげもあろう。「母が恋しい」という石牟礼さんの文章に「深く共感した」として、米良さんは難病のために過ごした施設の生活、工事現場でひたすら働いた母親の苦労などを赤裸々に告白している。

 「ひえつき節」「ヨイトマケの唄」などを通して話題は広がるが、二人の考え方が柔軟でいて強いのは、母なる大地や海に命のつながりを実感しているからだと気付く。今日「母の日」。母親はもちろん、広く母性を思わせるものの存在を思う。

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