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歩兵の本領

2018年4月13日
 「歩兵の本領」は浅田次郎さんが自衛隊員たちの素顔を活写した青春グラフィティ的な短編小説集である。どれも笑わせ泣かせるが特に「小村二等兵の憂鬱(ゆううつ)」が印象に残る。

 主人公は半長靴(はんちょうか)をなくし途方に暮れる新隊員。必死に捜すが見つからず先輩に他の中隊から拝借して、「員数をつけろ」と助言される。要は盗んでこいということだが見張りが厳しく失敗する。点検をあすに控え本人の憂鬱は極限に。読む方もドキドキの展開だ。

 こちらも日を追うごとに憂鬱の度が増す防衛省だ。小野寺防衛相はイラク派遣部隊の日報2日分が新たに陸上幕僚監部で、南スーダンPKO派遣部隊の日報が内部部局、統合幕僚監部、海上幕僚監部の計7部署で見つかったと公表した。

 「ない」とされていて見つかったイラク日報は新たに確認されたものを含め、延べ410日分に達した。南スーダン日報のうち内局の施設技術管理官では911日分を保管。情報公開請求に「存在しない」とした2016年7月7~12日の日報も一部含まれていた。

 ごみやちりなど論外で、毛布の畳み方一つにも目を光らせるのが自衛隊という組織。歩兵の本領の新隊員が点検前に泣きそうなほどびびるのは、いろいろある暗黙の規律の中でも官品をなくすなど絶対にあってはならないことだからだ。

 半長靴は、鬼の部屋長が磨いてくれていたという小説のオチで、意外にさわやかだった。日報がなくなったり、ぞろぞろ出てきたりする現実の事件はどんな結末になるのだろうか。苦い後味でもいい。うやむやにだけはさせてはならない。

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