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野鳥の声を通訳

2018年4月10日
 モリエールをご存じだろうか。高校の美術部員なら「そんなの常識。うちの部室にも一個ある」と答えるのではないだろうか。半身像で石こうデッサンのよきモデルとなる。

 ところが海外文学をかじった人なら「フランスの戯曲家だろ」と答えるはずだ。どちらも正解。付け加えれば、モリエールが生きた17世紀は俳優として有名だった。同じ人物が人によって全く別の顔を見せる好例だ。鈴木素直さんは「宮崎のモリエール」だった。

 詩人で日本野鳥の会県支部長、障害者教育の専門家、画家瑛九の研究者、エスペランティスト…。肩書が片手で収まらない。親交があっても、ほかの一面を知らない人は多かった。絵画展にいたと思えば、山中で出会ったこともあった。

 最後に会ったのは2014年宮崎市内であった「生賴範義展」の開会式典だったと思う。「生賴さんと写真撮ってよ」と言われて、この世界的な異色画家の、本県における数少ない友人であると知った。面倒見よさと快活さは分野を問わず人々を引き付けていた。

 詩「あいさつ」から「ころころ 石ころおいもが生まれてくる 虫もかえるも顔を出す それからたしかにきこえた-ありがとうって」。詩集を読み返すと、多彩な活動はすべて弱いものへ向ける優しさから派生していたことが分かる。

 肩書に野鳥の通訳士も加えたい。鳴き声がどう聞こえたか「聞きなし」には地域の人々の言葉と想像力が発揮される。聞き取り調査は民俗文化のユニークな切り口となった。通訳してくれる人が亡くなり、この春はウグイスの声も寂しい。

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