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湛慶の子犬

2017年11月14日
 上野の東京国立博物館で開かれている特別展「運慶」でデビュー作と伝わる大日如来坐像(ざぞう)など運慶本人やその息子たち、父親康慶らの手による仏像の数々を見る機会を得た。

 不動明王や菩薩、四天王など立像、坐像が並ぶ会場の一角に、ちょこんと展示されていたのが運慶の長男・湛慶の作とされるほぼ実寸大の「子犬」(京都・高山寺所蔵)。耳を伏せ首をかしげ、前足をそろえたつぶらな瞳の子犬の前には常に足を止める見学者がいた。

 モデルは動物を慈しんだとされる同寺の創建者・明恵上人の飼い犬と伝わる。日本彫刻史で子犬のありのままの像はとても珍しいとされ湛慶の彫技を通じ、生き物へ対する上人の惜しみない愛が目に見える形で表現された貴重な作品だ。

 帰路利用した上野駅前に「犬猫避難所」と書かれたポスターを掲げて寄付を呼び掛けるグループがいた。手渡されたパンフレットによると熊本地震の後、熊本県動物管理センターに飼い主とはぐれた犬猫が殺到、収容量の限界を超えてパンク状態になったという。

 グループは熊本県から要請を受けた都保健所の紹介で「里親カフェ」にたくさんの猫を預かり、犬は一時預かりボランティアの家庭で保護中だという。街頭活動はカフェ維持のための資金集めと犬猫の新飼い主を探すためのものだった。

 水晶を細工した大日如来坐像の玉眼は世の隅々を見渡し、困窮者を見逃すまいとする優しさがあった。まず人の救済が大事だが動物たちのことも視野に入れておきたい。わずかずつでも明恵上人の愛情を持ち寄れば救える犬猫の命がある。

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