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イチョウのドラマ

2017年11月12日
 本県から遠く離れた地で、古里の野山のような懐かしさを覚えることがある。東京でその雰囲気があるのが小石川植物園の照葉樹林だ。シラカシ、スダジイなどが密生する。

 広い植物園には好奇心をそそる見どころが多い。中央にそびえるイチョウは「精子発見のイチョウ」として世界中の植物学者に知られる。明治維新の直後、切り倒した者の所有になるとされたが切ろうとしても大きすぎた。期限に間に合わず伐採を免れたという。

 種子植物でありながら精子をつくることを1896年、学者の平瀬作五郎が発見。「イチョウの自然誌と文化史」(長田敏行著)によるとイチョウは、1億9千万年前のジュラ紀前期の化石と似ており「生きている化石」と呼ばれている。

 北半球に広く分布していたイチョウの繁栄と衰退のドラマが壮大だ。日本人には野菜の「いちょう切り」や髪形の「いちょう返し」などの言葉があるように大変親しみ深い植物だが、日本ではいったん絶滅。平安か鎌倉時代のころ中国から導入されたと知り驚いた。

 欧州には、江戸時代に日本に来た学者が持ち帰って広まった。独特な葉の形状を愛した文豪ゲーテは「いちょう葉」という詩で「東の国よりわが庭に移されしこの木の葉こそは、秘めたる意味を味わわせて物知る人を喜ばす」とうたう。

 宮崎西高の並木をのぞいたら、燃えるような黄葉が圧巻だった。大学や高校など学びの場で好まれる植樹。思索を刺激する風合いがあるのだろうか。ちなみにイチョウの落ち葉はワックス性の表層が腐食しにくく肥料には向かないそうだ。

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