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ゴムまり小僧

2017年10月13日
 体操の世界選手権予選をトップで通過したゴムまりみたいな娘さんがメダルをかけた決勝の平均台からバランスを崩して落ちたとき昔、読んだ児童書のことが頭をよぎった。

 ロシアの作家グリゴロービチの短編「サーカスのゴムまり小僧」だ。なにぶん子どもの頃の記憶で、手元に本もないのであいまいな点があるのだが、サーカスで跳んだりはねたり見事な演技を披露する“男の子”を見守る人物を語り部として物語が紡がれていく。

 ゴムまりみたいな娘さんとは村上茉愛さんのことだ。カナダで開催された体操の大舞台で、期待された個人総合はよもやの落下が響いて結果4位に。涙をのんだが種目別では平均台4位と表彰台に迫り、得意の床運動で頂点をつかんだ。

 女子として日本体操界63年ぶりの金メダル。H難度の大技シリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)の着地もきっちりと決めて、重力から解放されたような空中回転だけではなく、リオ五輪後に磨いたというターンの正確性や表現力も観衆にアピールした。

 村上さんが平均台から落ちたとき、思わず「あっ」と叫んだ人は多かったはず。メダルがかかった場面と聞けば、テレビさじきでさえ演技を正視できないほど緊張するのが体操という競技だ。涙顔が満面の笑みになって本当によかった。

 ゴムまり小僧の正体は女の子だった、というのが短編の結末だった。全身バネのような村上さんの演技も力強さで男子にひけを取らない。東京五輪でも表彰台真ん中に立つ姿を見たいもの。落下せず平均台を終えたらきっと夢に手が届く。

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