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あくがれる美術回廊

2017年8月13日
 宮崎市内で毎年、日向市東郷町の「あくがれ蒸留所」でつくられる芋焼酎を楽しむ会が開かれている。焼酎好きのほか日向市周辺の出身者らが集まって、毎回大にぎわいだ。

 実はこの会、焼酎だけでなく、もう一つ乾杯前に恒例の楽しみがある。歌人伊藤一彦さんが牧水について話す講話だ。伊藤さんは同町・若山牧水記念文学館の館長を務める縁から「あくがれ」の名付け親。むろん焼酎名は、同町出身である牧水の短歌から採った。

 先日開かれた第8回では、代表歌「けふもまたこころの鉦(かね)をうち鳴らしうち鳴らしつつあくがれてゆく」など牧水の歌に頻出する「あくがれ」について解説。西洋哲学に造詣の深い伊藤さんは、プラトンの唱えた「エロス」に通じるとした。

 「エロスは男女の愛だけでなく完全で美しいものを求める心。別の世界ではなく前世では知っていたから、人はそれを求める」と述べ、牧水の「幾山河」の歌を引用。「『寂しさの終(は)てなむ国』もこの世にはない。心の中に求めて巡礼の旅を続けている」と話した。

 県立美術館で開催中の「夢の美術館」を回っていたら、美術鑑賞も「あくがれ」に通じると思えた。描くモチーフも表現方法もさまざまだが、優れた美術品はそれぞれが心の深奥にある「完全で美しいもの」へ導く道を探っているようだ。

 福岡市美術館と北九州市立美術館が所有する名品の数々。興味を引く説明と配列によって各作品の美術史的な位置づけが印象に刻まれる。なんと高校生以下は無料。ぜひ夏休み中に、名画の巨匠たちと心の回廊を「あくがれ」歩いてほしい。

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