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引き揚げの記録

2017年8月9日
 夕食中、戸締まりをしていたのにソ連の兵隊2人が部屋に侵入してきて自動小銃を突き付けられた。奥歯をかみしめてもガチガチして「あの時の恐怖と言ったらなかった」。

 「私の『戦後70年』談話」(岩波書店編集部編)にある俳優宝田明さん(83)の体験談。映画やミュージカルにおける二枚目スターのイメージが強い宝田さんだが、戦争中は満州(中国東北部)の中央部ハルビンに住み、終戦前後、壮絶な体験を経て日本に帰国した。

 8月9日は長崎の「原爆の日」。ソ連が日ソ中立条約を破って、満州に侵攻した日としても記憶される。満州や朝鮮半島にいた日本人が引き揚げまで苦難の道を歩み、命を落とした人も多い。日本兵のシベリア抑留という悲劇も生んだ。

 ハルビンは無政府状態になり、宝田さんはソ連兵の銃弾を腹部に受けたこともあるという。本人も出演する朗読劇「宝田明物語」が9月18日、宮崎市で上演される。積極的に平和への発言を続ける宝田さんに共鳴した県民らが実行委員会を組織、上演にこぎつけた。

 「一夜にして民間人が被害に遭う状況に、戦争の悲惨さが詰まっている」。実行委員長の詩人南邦和さん(84)は朝鮮半島からの引き揚げ者。過酷な体験を封印する人が多い中、故郷を失う意味や祖国への思いに向き合い詩作を続けてきた。

 「体験が風化する中で、語り部としての自覚と責任を持って引き揚げを伝えたい」と南さん。公演は華々しいミュージカル曲もあり、往年のファンから若い人まで楽しめる構成という。終戦前後の体験が原点にあるから輝く平和の尊さだ。

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