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誰にも言うんじゃない

2017年7月14日
 「決して誰にも言うんじゃないぞ。おまえの母さんが聞いたら死んじまうから」。1983年ピュリツァー賞を受賞したアリス・ウォーカー著「カラーパープル」の書き出しだ。

 黒人の少女セリーは彼女が「あいつ」と呼ぶ男に性的虐待を受けるが、恐ろしい言葉で口止めされる。たったひとつの救いは神様に宛てた手紙で真実を語ること。しかし、頼みの神様もセリーのイメージでは〈男〉。男に虐げられ、無視されたとき怒りが爆発する。

 いったん神様を否定することでセリーは男中心の価値観から解放される。彼女の神様はheではなく性別や人種を超えた普遍的存在に変わっていく(朝日由紀子ほか編「アメリカ文化への招待/テーマと資料で学ぶ多様なアメリカ」)。

 被害者らの声を反映させ性犯罪を厳罰化する改正刑法が施行された。名称を強姦(ごうかん)罪から強制性交等罪に変更し、法定刑を引き上げた。特筆すべき点は、強姦罪や強制わいせつ罪などで起訴するのに被害者側からの告訴が必要だった親告罪の規定を撤廃したことだ。

 親告罪の仕組みは、精神的負担が重く性犯罪が潜在化する一因になっていた。また、親などの「監護者」が立場を利用して18歳未満に性的行為をすれば、暴行や脅迫がなくても罰することができる「監護者わいせつ罪」なども新設した。

 明治時代に制定されて以来の大幅な見直しだ。おそらくheの視座で作られた刑法にようやくsheの視点が織り込まれたが、改正の余地はまだ残る。どうすれば泣き寝入りをなくせるか。答えは被害者の苦しみに満ちた証言の中にある。

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