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池田屋事件と共謀罪

2017年6月17日
 時代は幕末。尊王攘夷(そんのうじょうい)派の浪士らは京都の池田屋を中心に会合を重ねながら「風の強い夜、京の町々に火を放ち御所を焼き払う」という恐るべきクーデター計画を立案した。

 最初のもし、だ。計画が実行されていたら御所をはじめ歴史的建物の多くが灰になっていた。それを阻止したのは壬生(みぶ)浪転じて壬生狼と呼ばれた新撰組だった。首謀者の一人を捕らえると苛烈な拷問を加えて計画の全容を把握した(井沢元彦著「英傑の日本史」)。

 犯罪を計画した段階で処罰することを可能にする「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法がおとといの朝、参院本会議で可決、成立した。国民の法案に対する疑念は払しょくされないままだった。

 採決は「中間報告」と呼ばれる異例の手続きで強行された。法相や法務副大臣の迷走答弁で法案が内包するさまざまな問題点があらわになり、一般人が捜査対象になりえるのかなりえないのかなど野党が激しく攻め立てたが強引に審議終了のゴングが鳴らされた。

 新撰組は拷問で得た情報をもとにして尊攘派が集結している池田屋を襲撃、壊滅的なダメージを与えた。ここで二つ目のもしだ。こんな法律が幕末にあったら新撰組は血に飢えた集団のような不名誉な異名を持つことはなかっただろう。

 テロを防ぐという名目で、その牙がテロとは無関係の一般人や団体などに向けられてはならない。新撰組の近藤勇や土方歳三たちも壬生狼と呼ばれることは本意ではなかったはずだ。法律が市中をうろつく狼にならないよう願うばかりだ。

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