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あかずの踏切り

2017年4月19日
 井上陽水さんに「あかずの踏切り」という曲がある。東京で暮らした学生時代、下宿からアルバイト先へ行く途中にあった私鉄線路に曲のタイトルを地で行く踏切があった。

 さあ、渡ろうというタイミングで決まって警報機が鳴り始め、遮断機が下りる。満員の特急電車がフルスピードで通り過ぎた後、各駅停車が到着するが警報音は鳴りやまずに次の通勤快速がやってくるという具合だ。ラッシュ時は閉じている時間の方が長かった。

 バイトの始業時間が迫り、気持ちはあせるが、おとなしく待つしかない。目の前を駆け抜ける電車が巻き起こす風はすさまじく、遮断機の前で待つ人の群れなど吹き飛ばしてしまいかねないほどの風圧に、いつも息が止まる思いがした。

 川崎市の京急電鉄八丁畷駅前で遮断機の下りた踏切内にいた男性2人が電車にはねられて死亡した事故の経緯が監視カメラの映像などから判明した。警報灯の明滅後、踏切に入った高齢男性を横浜銀行勤務の児玉征史さんが救助しようとして巻き込まれたという。

 4年前に横浜市のJR横浜線で、踏切内にいた無職男性を救助しようとした会社員村田奈津恵さんが電車にはねられ、亡くなった事故も衝撃的だった。もし、その場に居合わせたのが自分だったら…、情けないが足がすくんで動けまい。

 踏切の向こうには愛する人がいて温かいごはんのにおいがする、と歌う陽水さんだった。事故後、遮断機が上がっても笑顔で渡ってくる人の姿は見えない。家族そろった食卓の風景を壊し、命の糸を断つ踏切事故をなくすすべはないのか。

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