全国にある「
東北地方に伝わる民譚たん集。遠野(岩手県)のある集落では、60歳以上の老人をデンデラ野という場所に置いてくる習慣があった。ただそこで死を待っていたのではない。日中は里へ下りて農作業を手伝っていたという。老人は決して「捨てられた」のではない。
深沢七郎「楢山節考」の影響もあるだろう。だが、現在とは比べようもない貧困下で、それでも老人は共同体(ムラ)に必要とされた。労働を通して「あの世」へゆるやかに橋渡しする場所。民俗社会はそういう文化をはぐくんでいた。
スタートして3週間たった後期高齢者医療制度の混乱が、いまだに収まらない。制度の趣旨が対象者に周知されていないばかりか、新保険証が届いていない世帯もある。導入のどたばたぶりは目に余る。高齢者の不満に加え、医療側の県医師会さえ反対を訴える。
郵政解散で「衆院3分の2」を得た与党が、2年前に強行採決したのが発端だ。大義は老人医療費抑制。だが、それとて景気対策で重ねた膨大な借金の、社会保障へのつけ回しにすぎない。失政の責任は誰一人取らず、高齢者があえぐ。
日本の国民医療費は先進国の中でも決して高くはない。ましてや「75歳以上」を別枠で囲うなど。「死んでも死にきれない」と嘆く高齢者の場所は、あのデンデラ野からほど遠い。医療制度が現代の「棄老伝説」を生んではならない。
2008年04月22日
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