くろしお

2008年02月29日

 芥川龍之介は1日180本のたばこを欠かさず、森鴎外も葉巻を手放さなかった。夏目漱石、開高健、吉行淳之介、山本周五郎、池波正太郎。紫煙なくして名作はなかった。

 そんな文士が今の世に生きていたなら、自動販売機へ〈taspo(タスポ)〉をかざし、たばこを買っただろうか。着流しに下駄を鳴らしてたばこ屋へ行き、懐手から金を取り出す。それがカードを探してあたふたしたら、男(女)の美学なるものは崩れ去る。

 未成年者の喫煙防止のため、あすから自販機でたばこを購入する際にICカードが必要となった。全国に約52万台、県内は約4700台の自販機がある。全国たばこ販売協同組合の調べによると、売上額の約半分は自販機だという。

 このカードには氏名と顔写真が記載されている。いずれデータが集約され、厚労省から「吸いすぎです」とか、市町村から「たばこは地元で買いましょう」などと通知が来ないだろうか。まあそんなことはないだろうが、監視されているような後味の悪さがある。

 たばこメーカーでつくる日本たばこ協会は、システム開発費用に800億円以上を投じている。毎年のメンテナンス費用は100億円だという。そんな大金なら自動販売機を撤去し、未成年者の喫煙対策に費用を転じたらいいような気がする。

 無論、未成年者の喫煙は健康や素行に大きな影響を与える。一方で喫煙者の立場も尊重されなければならない。こんな背反する命題を解決する利器として、タスポが出現したのだろうか。大団円で終わるような文芸作品と比すべきもない。


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