社説

2007年09月27日

患者が「介護難民」になる恐れ

 介護難民。何という残酷な響きなのだろう。だが、この言葉が医療・介護現場では公然とささやかれている。

 政府が医療費抑制のため療養病床を削減し、患者を介護施設や自宅などに移そうとしているからだ。

 当然ながら長期療養向け病床の入院患者や家族は不安を募らせている。しかし受け皿となる介護施設は足りず、在宅医療も十分とはいえない。

 このままでは患者が行き場を失い、介護難民、医療難民が多数出る恐れがある、という現場の指摘もある。

 国民の健康と命にかかわる医療費を必要以上に抑えれば、医療制度そのものが国民の信頼を失いかねない。

■背景に国の歳出抑制■

 厚生労働省の方針はこうだ。

 全国に約37万床ある療養病床を2011年度までに15万床まで減らす。医療の必要度の低い患者が退院の対象になる。

 県内には医療療養病床約3千床、介護療養病床が約2千床あり、方針によれば介護病床は11年度までに全廃、医療病床は縮減されることになる。

 患者は老人保健施設や特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、自宅、新型の老人保健施設などに移る。

 厚労省は削減の理由について「他の先進諸国と比べ、人口当たりの療養病床数が多い上、患者の平均在院日数が長く医療費がかかる」と説明する。

 要は、医療費のかかる療養病床を減らし、より安くすむ介護施設や在宅医療に移すことで医療費の伸びを抑えようというものだ。背景に歳出抑制という国の財政再建策がある。

 問題は山積している。まず肝心な介護施設が足りない。

 有料ホームは低価格化が進んでいるが、誰もが月額十数万円以上もする利用料(介護保険利用料の自己負担などを含む)を払えるわけではない。

■少ない医師・看護師数■

 そこで厚労省は支援金を出し、療養病床の一部を、今の老人保健施設より治療や看護を手厚くした「医療機能強化型老人保健施設」に転換。受け皿を増やす考えだが、多くの医療機関は納得していない。

 多くの患者が自宅療養を望んでいるのは確かだが、核家族化で家族の協力が難しい。

 24時間体制の在宅介護や在宅医療も十分でないから、多くの患者が療養病床などで「社会的入院」を余儀なくされている。

 他の先進諸国と比べ療養病床が多く平均在院日数が長いのは、貧弱な住宅政策や在宅医療の整備の遅れなど国の施策に問題があるためで、そのツケを患者や家族が負わされているのだ。

 厚労省や財務省は強調しないが、病床当たりの医師数や看護職員数は、他の先進国の数分の一にすぎない。

 それでも日本が健康寿命で世界トップレベルを維持しているのは、誰もが平等の医療を受けられ、安上がりな国民皆保険制度による点が大きい。

 だが財政再建を優先し、医療費の自然増を必要以上に抑え、その尻ぬぐいを患者に回すようなやりかたを、このまま続けていいのだろうか。

 超高齢社会を迎え、医療費の増加は避けられない。国民皆保険制度を維持するには、若者も高齢者も企業もさらなる負担を迫られている。

 負担の在り方については国民的議論が必要であり、療養病床削減は患者や家族の理解を得るのが先決だ。


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